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「事務所経営白書」から見る社労士・労務関連のトレンドや課題

「AIやテクノロジーの発達によって、近い将来に社労士の仕事はなくなる」

RPA(Robotic Process Automation)が話題に上がっていた頃からでしょうか、このような言説をSNSやメディアでちらほら見かけるようになりました。

リクルートワークス研究所が発表した「AIに仕事を代替されやすい職ランキング」によると、同じ士業の公認会計士・税理士は53位中の16位。弁護士・弁理士・司法書士は、38位。

また、管理部門系の業務では、経理・財務が4位と上位にあがっていました。

参考資料:AIに仕事を代替される職業・されない職業、ランキング&マッピングで判明!(ダイヤモンドオンライン)

このような意見の背景には、単純作業の自動化、行政手続きの簡素化などによって、ヒトがやるべき業務が減っていく・・・という予想があるようです。確かに、経理や労務や法務などでは、近年クラウドシステムを導入し、業務効率化に取り組む企業が増えてきています。

実際、「給与計算に詳しくなくとも、給与計算クラウドシステムを使え、ある程度は業務ができた」「これまでかかっていた時間の数十分の一で作業を完了できた」といったお話を伺うことは間々あります。

一方で、長時間労働の解消を含む働き方改革、残業代未払い、ハラスメント、男性育休の取得促進など、近年は特に労務分野への社会的関心が高まっているという状況もあります。それに伴って、企業ひいては労務担当に求められることも増え、労務の専門家である社労士のニーズは高まっているようにも思えます。

労働新聞社によると、令和2年度の労働審判件数は過去最高だったそうです。新型コロナウイルスの影響もあるでしょうが、企業にとっては「労務」は今後も注目トピックスのひとつでありそうです。

参考資料:労働審判件数が過去最高に 労働関係訴訟も増加 コロナ・ショック影響か 最高裁・2年度司法統計(労働新聞社)


さて、実際のところはどうなのでしょうか?テクノロジーの発達によって社労士のニーズは減るのか、それとも高まっていくのか。そして、社労士事務所は今後どのような方向に向かっていくのか。

本記事では、事務所経営の専門誌「FIVE STAR MAGAZINE」(LIFE & MAGAZINE社)が発行している「事務所経営白書(2018年発行)」を参考に、社労士事務所のトレンドや課題をまとめました。

ぜひ、ご参考になさってください。

事務所経営白書とは・・・

士業事務所の経営に関連深い各種データを、各官公庁・公共機関・企業・団体の統計・調査から、収集・精査し、独自の視点での考察を加えてまとめられたものです。

こちらよりご購入いただくことができます。

※本記事は、LIFE&MAGAZINE社の協力のもと作成しております。白書のご購入は同社よりお申し込みください。当サイト経由での販売は行っておりませんので、ご了承ください。


厚生労働省&司法統計情報からみる労務問題のトレンド

まずは、労務問題の発生件数や状況を見てみましょう。

厚生労働法の「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)」によると、是正企業数や割増賃金支払いをした企業数などは前年度比で減少傾向にあります。

  • 是正企業数 1,062企業(前年度比549企業の減)
  • うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、112企業(前年度比49企業の減)
  • 対象労働者数 6万5,395人(同1万3,322人の減)
  • 支払われた割増賃金合計額 69億8,614万円(同28億5,454万円の減)
  • 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円

100万円以上の割増賃金の遡及支払状況(過去10年度分)」によると、企業数・対象労働者数・是正支払額ともに平成30年以降は減少しているようです。「賃金不払残業の解消のための取組事例」では、紹介されているすべての事例に「ICカードを用いた勤怠システム」が登場しています。

ジョブカン勤怠やHRMOS勤怠(旧:IEYASU)、freee勤怠管理plus、マネーフォワードクラウド勤怠、KING OF TIMEなどの勤怠管理システムは、ICカードや指紋認証など様々な方法での打刻が可能です。また、紙と違って改ざんしづらい・されづらいという特徴があります。

上記の資料だけでは言い切れませんが、このような勤怠管理システムの普及は、賃金不払残業の減少に影響しているのかもしれません。

上記でもご紹介しましたが、「司法統計情報(裁判所)」では、下記のようなデータが発表されていました。

  • 地方裁判所が新規に受け付けた労働審判の事件数が3,907件と、制度創設以来過去最高になった
  • 地位確認(解雇等) 1,853件 ※前年度から252件(15.7%)増
  • 賃金手当等(解雇予告手当を含む)1,501件 ※前年度から33件(2.2%)減

こちらの結果は、新型コロナウイルス流行拡大による解雇が影響している事も考えられますが、外部環境に何か変化があれば「労働」は影響を受けやすいということが伺えます。

また、「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況(厚生労働省)」には、労働相談の件数が増加傾向だという結果がありました。

引用元:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します 


行政手続きは、やっぱり面倒!

日本商工会議所が実施した、「行政手続き簡素化に関するアンケート(2016年)」によると、企業の担当者や経営者が行政手続きで負担であると感じる分野の第一位は「社会保険(48.6%)」でした。

同アンケートの二位は「補助金・助成金(48.2%)」、三位は「税務(45.0%)」。

また、事業開始・創業時において負担と感じる行政手続きについてのアンケートでも、結果は同じで一位に社会保険が来ています。

創業時から数年は、管理部門の人数は少ない場合が多いでしょう。ひとりが経理、労務、採用などと複数業務を兼任することも、珍しくないだろうと思います。

そのような人手不足の状態では、社会保険や助成金の制度の理解・手続きは、重い負担になるであろうことは想像に難くありません。

※こちらのデータは、事務所経営白書からの引用です。

参考情報:中小企業等の生産性向上に向けた行政手続簡素化に関する意見(日本商工会議所


社労士のニーズは・・・

クラウドシステムによって、労務経験が浅い方でも業務ができるようになったり、従来は外注していた給与計算などが内製化できたりといったケースは今後も増えるでしょうが、一方で個別対応や労務問題はクラウドシステムでは対応しきれません。

クラウドシステムは、「どの企業でも共通してあるだろう業務や課題」に対応した機能を実装しています。個別企業に向けた開発工数が発生していないからこそ、安価で利用できるのですが、逆に「それ以上のことは対応が難しい」ということでもあります。

ましてや、労務問題というのはヒトが相手ですから、対応を都度考えて話し合う必要があります。このようなことも踏まえると、労務分野の専門家である社労士のニーズは十分あるように考えられます。

事務所経営白書によると、社労士資格の取得人数は年々増えていて、社労士事務所の従業員数、新設事務所数も増加傾向にあるそうです。また、一事業所あたりの売上高や付加価値も増加していて、ニーズが高まっていることが数字に表れています。

【従業員数の推移】

  • 2012年 15,775人
  • 2016年 18,686人

新設事務所数の推移】

  • 2012年 314件
  • 2016年 916件

【一事務所たりの売上高の推移】

  • 2012年 1,560万円
  • 2016年 1,733万円

【新設事務所数の推移】

  • 2012年 972万円
  • 2016年 1,077万円

他士業との比較

事務所経営白書には、社労士事務所だけでなく、法律事務所や司法書士事務所などほか士業事務所のデータも載っています。各士業事務所と、収益性・生産性・一人あたりの売上高を比較したものがこちらです。

単価などが異なりますので、一概には比較できませんが、参考情報としてご紹介します。

【収益性(2016年)】

  • 社労士事務所 26.4%
  • 法律事務所 26.9%
  • 司法書士事務所 30.0%
  • 行政書士事務所 24.7%
  • 税理士事務所 22.1%

【生産性(2016年) ※付加価値額÷従業員数】

  • 社労士事務所 335万円
  • 法律事務所 615万円
  • 司法書士事務所 394万円
  • 行政書士事務所 206万円

【 一人あたり売上高(2016年)】

  •  社労士事務所 553万円
  • 法律事務所 1,052万円
  • 司法書士事務所 692万円
  • 行政書士事務所 394万円

生産性向上、業務効率化の波は社労士事務所にも

同白書によると、社労士事務所全体では、10人未満の事務所95%が売上の80%を占めているそうです。

また、一事業所あたりの売上高を見ると、人数と売上高が比例していることが分かります。一方で、一人あたりの売上高(生産性)は20人〜では減少傾向にあり、一定以上の規模の事務所では生産性向上が課題のようだとも読み取れます。

【従業員規模別 売上(市場)占有率】

  • 1〜4人 47.0%
  • 5〜9人 33.1%
  • 10〜19人 16.2%
  • 20〜29人 3.7%
  • 30〜49人 NA
  • 50人〜 NA

【従業員規模別 一事業所あたり、一人あたりの売上高(2016年)】

  • 1〜4人 一事業所@993万円 一人@488万円
  • 5〜9人 一事業所@3,646万円 一人@588万円
  • 10〜19人 一事業所@8,152万円 一人@658万円
  • 20〜29人 一事業所@NA 一人@583万円
  • 30〜49人 NA
  • 50人〜 NA

同白書「残業の実態※」という項目では、残業が最長の週の残業時間(正社員・フルタイム)が30時間以上と回答したのが20%以上、20時間以上は39.2%という結果もありました。

※過労死に関する実態アンケート(厚生労働省)における、学術研究、専門・技術サービス業の回答結果

社労士事務所をはじめとした士業事務所は、顧客の要望に応えるクライアントワークであり、また専門知識や調査が必要な場合もあるため、どうしても残業が状態化してしまうのかもしれません。

一方で、「人員が足りないため(仕事量が多いため) 39.0」、「社員間の業務の平準化がされていないため13.7%」といった結果からは、業務の平準化や効率化によって解消できる課題ではないかとも考えられます。

もちろん、そもそも仕事量が多い・人手不足であるという状況はあるのでしょうが、改善の余地はありそうです。


終わりに

以上、事務所経営白書や各省庁のデータを引用しながら、社労士事務所についてご紹介してまいりました。

社労士事務所が必要とされるシーンは、今後も増加する可能性があるのではないでしょうか。AIやテクノロジーによって仕事が奪われる、ということは、個別対応が必要な労務問題や従業員への個別対応には影響がなさそうです。

一方で、生産性や残業時間のデータからは、社労士事務所の運営や働き方に改善の余地がありそうだ、ということが読み取れます。

また、当サイト運営元のTECO Designには、「自社にクラウドシステムを導入したが、顧問の社労士が対応していないので困っている」「クラウドシステムやITツールに対応している社労士を紹介してほしい」といった企業の労務担当者の方からのご相談が寄せられることも少なくありません。

クラウドシステムによる業務効率化に成功した企業からは、社労士に求めることがかつてとは変わってきているようです。

「AIやテクノロジーの発達によって、近い将来に社労士の仕事はなくなる」ことは無くとも、「AIやテクノロジーの発達によって、社労士の仕事が変わる」ということはすでに起こっているのでしょう。

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