社会保険労務士への年金相談が適しているのはどんなとき?

現役世代の労務管理においては、支払うばかりの厚生年金保険料。しかし、「従業員の定年が近い」「従業員が障害を負ってしまった」といったときには、従業員に対して年金をもらうための説明をしなければならない機会もあるでしょう。
ただ、年金制度は複雑なものです。年金についてきちんと知りたいときの相談先としては、社会保険労務士(以下、社労士)が挙げられます。
本記事では、年金制度の概要と年金に関する相談先別の特徴を紹介します。
年金制度をおおまかに捉えよう
「年金」は、大きく分けて2つに分かれます。「公的年金」と「私的年金」です。
公的年金とは、具体的には「国民年金」と「厚生年金」を指します。国民年金には、日本国内に住む20歳から60歳のすべての人が加入します。厚生年金は、会社員・公務員の方が加入するものです。
一方、私的年金とは、公的年金の上乗せの給付を保証する制度です。私的年金は、具体的には「確定給付型」と「確定拠出型」の2種類があります。
本記事では、特に公的年金について取り上げます。
国民年金とはどんな制度?
公的年金のうち、まずは国民年金について見てみましょう。
国民年金は、日本国内に住む20歳から60歳のすべての人が加入する制度です。毎年4月、年金事務所から納付書が送られてきます。国民年金の保険料額は一律で、2022年4月~2023年3月分は月額16,590円です。銀行や郵便局、コンビニなどで自分で支払います。
日本は「皆年金制度」なので、国民年金に加入していないということはあり得ません。サラリーマンの配偶者で自分では保険料を支払っていない方はもちろん、仮に無職で保険料を支払っていなかったとしても、制度自体には加入していることになります。
生活状況が厳しいなどの理由で保険料が支払えない場合は、将来受け取る年金のためにも免除や納付猶予の制度を活用しましょう。
厚生年金とはどんな制度?
厚生年金は、会社員・公務員の方が加入する制度です。つまり、会社員・公務員は国民年金と厚生年金の両方に加入することになります。
厚生年金の保険料は国民年金加入分も含めて、一部が給与から天引きされ、残りの部分と合わせて会社がまとめて支払います。一般的には「労使折半」といって、会社と従業員が半額ずつ負担していることが多いでしょう。
厚生年金の保険料額は、一律である国民年金とは異なり、給与額によって決まります。そして、
少なくとも1年に1回は保険料額見直しの手続きである「定時決定」を行います。
定時決定について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
老後や障害を負ったときに受給できる年金とは?
会社にとっても従業員にとっても負担の大きい年金の保険料。毎月コツコツ納めた保険料は、いざというときに役立ちます。
その「いざ」というときは、「年をとって働けなくなったとき」「障害を負って働けなくなったとき」「家族が亡くなったとき」の3つです。それぞれ、以下の名称の年金を受給することができます。
・ 年をとって働けなくなったとき・・・老齢年金
・ 障害を負って働けなくなったとき・・・障害年金
・ 家族が亡くなったとき・・・遺族年金
「年金」と聞いて一番にイメージされるのは老齢年金でしょう。原則として65歳から、老後の保障として一生涯支払われます。
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる年金です。
遺族年金は、国民年金や厚生年金保険に加入中、あるいは過去に加入していた方が亡くなった場合、その方によって生計を維持されていた遺族が受給できるものです。
それぞれの年金額に関しては、老齢年金は納めてきた保険料、障害年金は障害の程度、遺族年金は子どもの数によって変わります。
年金に関する3つの相談先
年金についてきちんと知りたいとき、主な相談先には以下の3つが挙げられます。
・ 年金事務所
・ 街角の年金相談センター
・ 社労士
相談内容や状況によって、どの相談先が適しているかが変わってきます。
年金事務所への相談が適しているとき
従業員から「自分は一体どのくらいの年金を受け取れるのかを知りたいがどうすればよいか」と聞かれたときは、年金事務所へ問い合わせるよう伝えましょう。
年金に関する一般的な相談はもちろん、実際に手続きを行ってほしいときや過去の年金記録を確認したいときにも年金事務所が適しています。年金番号を控えてから行くと、スムーズに相談を開始することが可能です。
街角の年金相談センターへの相談が適しているとき
「街角の年金相談センター」とは、日本年金機構が全国社会保険労務士会連合会(すべての社労士が所属する各都道府県の社会保険労務士会の連合組織)に委託して運営されている相談窓口です。
街角の年金相談センターへの相談が適しているときは、年金事務所への相談とほぼ同じです。
しかし、従業員が退職後に国民年金に加入するといった場合、街角の年金相談センターで手続きを行うことはできません。国民年金の加入や納付などについては、年金事務所へ相談に行きましょう。
また、街角の年金相談センターは年金事務所ほど数は多くありません。例えば東京都23区ではすべてに年金事務所が設置されていますが、街角の年金相談センターは、足立区・江戸川区・大田区・江東区・新宿区・練馬区の6区のみに設置されています。
社労士への相談が適しているとき
では、年金に関して、社労士に相談することが適しているときはいつなのでしょうか。
社労士への年金相談が適しているときには、主に2つの場面が挙げられます。
一つ目は、企業として年金制度についてきちんと知りたいときです。
たとえば早期退職や定年後再雇用にあたり、年金制度の大まかな内容や従業員個人での手続きの仕方を従業員に説明しなければならないケースがあるでしょう。そんなときは、社労士に簡単な説明の仕方を相談したり、資料作りを依頼したりといったことが考えられます。
二つ目は、障害年金を申請するときです。
老齢年金と遺族年金は、個人に送られてくる書類や年金事務所で手に入る資料を見て申請すれば、そう難しくはありません。
一方、障害年金では「受給要件を満たしているか」「障害の程度はどの程度か」などがしっかりとチェックされます。老齢年金・遺族年金と比較すると申請手続きがむずかしく、受給ハードルが高いのです。
社労士にとっても障害年金の手続きは慣れが必要なので、とくに障害年金申請の実績豊富な社労士に依頼することをおすすめします。
障害年金の申請が「むずかしい」と言われる理由や社労士に依頼するメリット・デメリットについては、以下の記事もご参照ください。
年金相談の相手としての社労士の役割まとめ
加入が義務付けられている公的年金である国民年金と厚生年金。毎月の保険料負担は大きいものですが、「年をとって働けなくなったとき」「障害を負って働けなくなったとき」「家族が亡くなったとき」に役に立ちます。年金について相談したいときは、相談先として年金事務所・街角
の相談センター・社労士の3つから検討しましょう。なかでも社労士への相談が適しているのは、企業として相談したいときや障害年金の申請を依頼したいときです。とくに障害年金の制度は複雑なので、障害年金申請の実績が豊富な社労士に依頼するとよいでしょう。