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押さえておきたい!クラウドサービスの基礎知識

昨今、様々な分野でのクラウドサービスの活用が進んでいます。

人事労務においても、勤怠管理や給与計算を効率化することのできるクラウドサービスを導入する企業や社労士事務所が増えているような実感があります。

一方で、クラウドサービスがどのようなものなのか、具体的なイメージを持てていない方も少なくないかと思います。本記事では、クラウドサービスの基礎知識や、導入・活用するにあたって押さえておきたいポイントをご紹介します。

クラウドサービスとは?

クラウド化のイメージ

クラウドサービスとは、利用者がソフトウェアやストレージ(データを保存するもの)を物理的に持たずとも、インターネット上で必要に応じてサービスを利用できる仕組みのことです。

例えば、SpotifyやApple Musicのような音楽ストリーミングサービスもクラウドサービスのひとつです。従来は、CDを物理的に保有し、プレイヤーを使用するなどして音楽を聴いていました。音楽ストリーミングサービスであれば、利用者はCDやプレイヤーを保有することなく、好きなときに好きな曲を聴くことができます。

ビジネスシーンであれば、Googleアカウントを作成するだけで使うことのできるGoogle スプレッドシートや、Google ドキュメント、オンライン上で使用できるMicrosoft365やOne Driveなどが挙げられます。

表計算や文書作成のために、家電量販店などでCD-ROMを購入してインストールをしたことがある方は多いかと思います。

クラウドサービスとはなにか

クラウドサービスであれば、インターネット上で利用申込をしたり、アカウントを作成するだけで、物理的なCD-ROMによるインストールなどの必要なく、簡単に利用することができます。また、バージョンアップのための作業もすることなく、常に最新の機能を使うことができます。

また、クラウドサービスは大きく分けて下記のような種類があります。

  • SaaS(サース/Software as a Service)
    • 従来はCD-ROMで物理的に提供されていたソフトウェアを、インターネットを経由し、簡単に使えるようにしたクラウドサービスのことです。
    • 上記の例は、SaaSのことです。
  • IaaS (イアース/Infrastructure as a Service)
    • OS、サーバーや記憶装置、ネットワーク機器などのインフラをインターネット経由で提供するクラウドサービスです。
  • PaaS(パース/Platform as a Service)
    • SaaSで提供されるアプリケーションの開発環境を提供するクラウドサービスで、OS、サーバーなどをの機能一式を利用することができます。
  • BaaS(バース/Backend as a Service)
    • スマートフォンやタブレットなどのシステムのバックエンド機能を、アプリケーションサーバーで代行することのできるクラウドサービスです。

IaaS、PaaS、BaaSは、主にシステムやサービスを開発するエンジニアが使用するものですので、「給与計算クラウドサービス」「勤怠管理クラウドサービス」であるとご認識ください。

また、物理的にシステムやサーバーを保有することを、「オンプレミス」とも言います。クラウドサービスの反対語として、覚えておきましょう。

クラウドサービスの利用状況

総務省が発表した「令和3年度 情報通信白書」では、2010年から2020年にかけて、クラウドサービスを利用している事業者の方が、利用していない事業者と比較して労働生産性が高いことが示されています(下図の左)。※ 労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数により算出

クラウドサービスの利用と労働生産 性の関係

引用元:令和3年度 情報通信白書 デジタル化の現状と課題
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01honpen.pdf

また、同白書によると2020年にクラウドサービスを利用している企業の割合は68.7%と、前年比で4.0%上昇しています。「利用していないが、今後利用する予定がある」と回答した企業は、10.1%。「利用していないし、今後も利用する予定もない」と回答した企業は16.0%で、こちらの回答割合は年々減少しています。

このような結果からは、多くの企業がクラウドサービス導入によるメリットを理解していて、また今後も導入企業が増えることが伺えます。

同白書では、クラウドサービスの利用内訳についての調査結果もありました。

最も多いのが、「ファイル保管・データ共有」で約59%。次いで、「電子メール」50.3%、「社内情報共有・ポータル」44.6%、「スケジュール共有」43,8%。そして、「給与、財務会計、人事」は37.8%と、5番目に多い回答数でした。

クラウドサービスは、今や様々な業務において活用することができます。

例えば、採用、人事管理、入退社手続き、勤怠管理、給与計算、年末調整、社宅管理・手配、会計、経費精算、データ保存(ストレージ)などが挙げられます。

もちろん、クラウドサービスの提供事業者(ベンダー)も数多くありますので、自社に合ったサービス選定・比較が重要です。

クラウドサービスのメリット

では、クラウドサービスを導入するメリットは、どのようなものがあるのでしょうか。導入企業が抱える課題や状況により、解決できる課題は様々ですが、主に下記のようなことが挙げられます。

簡単に導入ができる

クラウドサービスは、インターネット環境とPCなどの端末さえあれば、他に社内のシステムやサーバーなどを追加することなく導入することができます。

費用を抑えることができる

クラウドサービスは、ソフトウェア・自社に合わせた1からのシステム開発に比べると、費用を抑えることができます。
また、インフラやシステムを自社で保有・管理する必要がなく、人件費を抑えられるのです。

システムの保守・管理を社内で行う必要がない

クラウドサービスのメンテナンスは、サービス提供会社(ベンダー)が行うため、社内でシステム保守・管理を行う必要はありません。仮に、自社にシステムに詳しい方や情報システム担当者がいなかったとしても、クラウドサービスを活用することができます。

BCP対策ができる

クラウドサービスのほとんどは、サービスを提供するサーバーを多重化しています。世界各地のデータセンターでサービスが提供されるため、ある地域で災害などによる障害が発生しても、その他地域のデータセンターに切り替えてサービスを継続的に利用するkとができます。

以上に加えて、人事労務業務においては、下記のメリットが挙げられます。

ペーパーレス化

例えば、従来は紙で配布していた給与明細を、クラウドサービス導入によって、メールで従業員に自動で配布したり、システム上で閲覧できるようにしたりと、デジタル化することができます。そうすることによって、印刷・封入・配布や郵送の工数、費用、保管場所や管理の工数が削減できます。

勤怠や給与、人事情報などを紙ではなく、クラウドサービスによって管理することによって、盗難や保管場所の鍵のかけ忘れなどによる情報漏えいリスクを減らすことができ、必要な情報を探す手間も省略することができます。

このように、クラウドサービス導入によって、紙を使う業務から脱却することができ、工数とコストを削減する効果を得られるのです。

ヒューマンエラー対策

クラウドサービスを使うことによって、情報の転記や手計算などの「手作業」を減らすことができます。例えば、勤怠管理・給与計算の両方の業務においてクラウドサービスを導入し、システムを連携させることによって、ボタン一つ押すだけ・CSVファイルを取り込むだけで、簡単に給与計算を行うことができます。

出勤簿の数字を手でシステムに打ち込んだり、電卓で計算する必要はありません。

ミスが許されない人事労務業務ですが、手作業が多く、ミスを誘発する業務環境である場合も少なくありません。クラウドサービスで手作業を減らすことによって、「うっかりミス」「ヒューマンエラー」を防止することができます。

ヒューマンエラー対策

テレワークの推進

クラウドサービスを使うことによって、インターネット環境と端末さえあれば、いつでも・どこでも仕事ができるようになります。

新型コロナウイルス感染拡大移行、テレワークの普及が加速し、緊急事態宣言下においては出社割合を減らすような政府方針もありました。一方で、会社に置いてあるPCでしか給与計算ができず、出社せざるを得ないといった方も少なからずいらっしゃったようです。

クラウドサービスの導入によって、働く場所を自由化することができ、テレワークや働き方改革を推進することができます。また、感染拡大が落ち着いた後であっても、育児・介護や私生活との両立の難しさや、引っ越しに伴う退職を減らすことにも繋がり、人材確保や離職率低下にも一定の効果を期待できるでしょう。

本記事では、代表的なものをご紹介しましたが、クラウドサービスは日々進化し、種類や機能が多様化しています。業務や組織の課題解決の手段のひとつとして、「クラウドサービスを検討する」ことをまずやっていただいても良いかもしれません。

クラウドサービスのデメリット

一方、クラウドサービスもメリットばかりではありません。メリット・デメリットの両方を把握しておきましょう。

自由なカスタマイズがしづらい

クラウドサービスは、多くの企業が同じ機能を利用することを想定して開発されています。そのため、汎用的な機能が中心で、自社に合わせて自由にカスタマイズをすることが難しいというデメリットがあります。

自社の業務プロセスにクラウドサービスを合わせるのでなく、クラウドサービスの機能や運用方法に業務プロセスを合わせるようなことも必要です。

サービス停止のリスクがある

クラウドサービスは安価で便利ではありますが、サービス停止のリスクがあります。

運営している企業の業績や都合により、サービスが縮小・譲渡されてしまう場合がありますので、そのリスクも考えておかなければなりません。ある日突然使えなくなるといったことは非常に稀かとは思いますが、「サービスが停止した場合、代替的なサービスが存在するか」など、対策を立てておくと安心です。

また、サービス選定時に、クラウドサービス提供事業者(ベンダー)の体力や運営上京なども加味することもリスクへの対応策のひとつです。

情報漏洩リスク対策が必要

インターネットを経由してクラウドサービスはを使えることは利便性がある一方で、情報漏えいリスク・外部からの攻撃を受けるリスクもあります。仮に、システム管理者のIDやパスワードが漏洩したら、従業員の個人情報が危険にさらされてしまうかもしれません。

マルウェアを定期的にチェックする、定期的にIDとパスワードを変更するなど、セキュリティ面において具体的な対策をしておかなければなりません。

クラウドサービスの効果的な運用のために

システム運用コンサルティング

これまで、クラウドサービスの考え方や、メリット・デメリットについてご紹介しました。

本記事でご紹介しました「令和3年度 情報通信白書」によると、クラウドサービスを導入したことにより何かしらの効果を実感している企業は全体の約87%だそうです。高い数値ではありますが、一方で約10%の企業は効果を実感できていないという結果でもあります。

インターネットで勤怠管理や給与計算、人事労務手続きのクラウドサービスを検索すると、数多くのサービスが提供されていることがわかります。

また、基本機能はどのサービスも兼ね備えていて、自社に合ったサービスをどう選定すれば良いのか?どのような観点で比較すれば良いのか?についてお悩みだという声をよく伺います。

自社に合ったサービスを選定するためには、まず自社における課題や目的を明確にする必要があります。表層的な課題にとらわれず、課題の根本解決のためには何が必要なのか、クラウドサービスという「手段」の導入が、「目的」になってしまっていないかなど、複数の観点で現状を分析し、課題解決・目的達成のための道筋を立て、運用について具体化することがまずやるべきことです。

この点をおろそかにしてしまったり、要件を詰めきれていなかったりすると、「思っていたような効果がない」「せっかく導入したのに却って手間になってしまった」といったネガティブな結果になってしまいます。

一方で、自社の課題を明確にすることと、クラウドサービスの運用を考えることでは、必要なスキルや知識が異なります。前者では自社や業務特有の知見、後者ではクラウドサービスの仕組みやベンダー、データ連携などの知見が必要です。

通常業務で忙しい担当者の方が、新しい知識を一から習得したり、課題設定や運用設計まで手を広げることは、現実的ではありません。

「餅は餅屋」「海の事は舟子に問え山の事は樵夫に問え」と言いますが、自社で全てをやり切ろうとせず、専門家に相談し、二人三脚で取り組むことが効果的なクラウドサービス運用の近道でしょう。

以上、クラウドサービスの基礎知識について、事例を交えながらご紹介してまいりました。

人事労務分野の主要クラウドサービスや用語集の記事もございますので、ぜひ併せてご覧ください。

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